240101 - 0107

1/1 月
8時過ぎに起床。何人かからあけましておめでとうのLINEが入っていた。散歩したあと、年は明けたものの去年見てよかった映画や音楽をまとめた。でも2024年になった感じがまるでしない。
16時過ぎに能登地震があった。東京も少しだけ揺れた。ゆっくりと大きなカーブを描くような揺れの影響でわたしは船酔いのように気持ち悪くなった。つけっぱなしのテレビから津波警報のアナウンスが聞こえてきた。最初の揺れのあと、何度も何度も能登が揺れた。自分が安全な場所にいて、こうして日記を書いたり本を読んだり娯楽を享受していることに罪悪を感じた。その思いはウクライナやガザについてのニュースを見たりそれらについて考えたりするときにも確かに存在している。

 

1/2 火
キム・エランの短編集を読んでいた。『子午線を通過するとき』に登場するソウルの鷺梁津という街は市場のほかに公務員試験や大学の試験を受験する浪人生の街という側面があるそうだが、公務員試験に落ち続け、鷺梁津からいまだに出られずにいる主人公はこう語る。

二〇〇五年の秋。人混みの隙間からソウルの灯りを見つめる。そして鷺梁津という地名について考える。橋の意味を持つ<津>の意味と同時に使われている場所。一九九九年の私が通過点なのだと信じこんでいた場所。誰もが通り過ぎる場所。本当に通り過ぎるだけの場所だったら、どんなによかっただろう。七年が過ぎた二〇〇五年の今も、どうして私は相変わらず通過中なのだろうか。
キム・エラン『子午線を通過するとき』

主人公にとっての鷺梁津のように、わたしもいまいる場所からいつか出られると思っていた。でもいまだにここにいる。変わっていく街の中で自分だけが変われないような感覚があって、でもそれを言葉にしてくれたみたいでなんだか泣きたくなる。
夜は親戚とご飯を食べる。レストランの近くのショッピングモールで小さなバッグを衝動買いした。いい大人なのにお年玉を頂き、あまりにもびっくりしすぎて何かのドッキリかと思った。わたしのいとこも親戚もみんな結婚するのとか彼氏いるのとか、一言も訊かれたことがない。それがいかにありがたいことなのか理解したのはここ数年のことだった。食事中に痛ましいニュースが流れ、気分が暗くなる。自分にできることは何ひとつないような思いになる。

 

1/3 水
年末のバタバタでよく聴けていなかった박혜신 Park Hye Jinのニューアルバム("Seil the Seven Seas")を聴きながら渋谷に行く。年末になんとなく聴いたときはあまりピンと来なかったが、今ごろアルバムの良さに気づいてハッとする。박혜신 park hye jinの音楽からはままらなさや苛立ち、不満を強く感じられて、そこにすごく惹かれる。
恋人と待ち合わせて『ファースト・カウ』を見るが、序盤から中盤までうとうとと寝てしまった。すごく悲しい。同じく恋人も寝てしまったらしい。メキシコ料理を食べたあと、シティベーカリーでお茶をする。今のままだと5年後や10年後も同じような人生を歩んでいるだろうからそれを変えるには大きな力や決意が必要だ、とわりとシリアスな話をしているとき、こういう思いに駆られて人は子どもを持ったり持ちたいと願うのだろうかと思った。別れ際にすれ違った若い男の子が「生きてさえすればそれで大丈夫」みたいなニュアンスの何かとてもいいことを言っていて、恋人とあれはすごくいい言葉だったねと言い合ったが、それが何なのか忘れてしまった。すぐに書き留めておけばよかった。

 

1/4 木
仕事初め、だったけれどまったく忙しくはなかった。友だちとのあいだでいざこざがあった。友だちにとっては普通であることがわたしにとってのまったく普通ではなかったのでうまく会話が成り立たなかっただけの話なのだが、彼女はわたしのことを「意図が汲めていない」「普通ならわかると思っていた」と強く批判した。わたしはアスペルガーと診断されていることもあり、非言語コミュニケーションが人よりかなり苦手だ。それでも自分なりに努力して努力してやってきて普通に見えるような人間になれたと思ったのに、友だちから言われた言葉たったひとつのせいでこれまでの人生のすべてががらがらと音を立ててこわれたような気分だった。ほとんど反射的に涙があふれて止まらず、悲しくてくやしくて仕方がなかった。12月のソウルでも彼女と揉めた。そのときに絶縁しようと思ったしそういえば夏にもそう感じたのだが、ずるずると今に至っている。
その友だちとどうやって極力穏やかに距離を置けるのか考え出したら、何かを始めるだけではなく終わらせることも同じくらい大事なのだろうなとふと思う。惰性で通っている韓国語教室、寝る前のスマホSNSの見過ぎ、そしてわたしを傷つける友だちとの付き合い。今年はそういったものを終わらせて、変化する年にもしたい。まず寝る前のスマホをやめようと決め、別室に置いて眠った。

 

1/5 金
昨日の友だちの一言がきっかけで鬱のスイッチが入ったらしい。朝起きられず、頭もうまく働かず、ずっと希死念慮に苛まれていた。去年の6月に双極性と診断された。それから漢方を飲み続けていたら少しよくなって気持ちの波がましになったけど、戻ってしまった。ふとしたときに友だちから言われた言葉がフラッシュバックして泣きそうになって、そのたびにわたしは自分に大丈夫、と言い聞かせている。
家にいると気が狂いそうなので散歩していると、大好きな友だちから「大阪に帰ることになってしまった」と連絡が来た。あなたの心身の健康が一番大事だから、といったような旨の返事をする。『ゴーストワールド』のサウンドトラックを聴きながら冬の光が降り注ぐ道を歩いていた。イーニドが路端を歩いているシーンが頭をかすめ、わたしはどこに向かっているんだろうと思った。

 

1/6 土
一昨年の12月からずっと、毎週土曜日に韓国語教室に通っていた。学ぶのは楽しかったけれどいつのまにか向上心なんてすばらしいものは早々に消えてしまった。それなのになぜ通っていたのかというと、先生の人柄がすごく魅力的だった、その一点だけだ。韓国語でも日本語でも、とにかく先生と話すのが楽しくて毎週時間を作っていた。月額12000円はわたしにとって決して安い値段ではなく、しかも上手くなりたい気持ちもどこかにいってしまっていたので先生にも失礼だと思って、何度も何度も今日でやめようと思った。でもいざ最後となると惜しくなって契約を更新し続けた。その韓国語教室を今日やめた。先生と別れたあと、さみしくてさみしくて泣きながら帰路に着いた。でも途中で教室にマフラーを忘れたことに気づいて、안녕하세요 선생님とラインをする。先生から返事が来て、来週また会うことになった。それが本当に本当に最後だろう。
先生との別れに泣きながら家に帰ったあと、恋人に会うために家を出、待ち合わせたあとロイヤルホストへ。わたしがロイヤルホストに行ったことがないと言ったら連れて行ってくれた。頼んだものすべてボリューミーで満腹。それにしてもロイヤルホストに漂うあのロマンと情緒の正体って一体なんなんだろう?明らかに他のファミレスとは違う何かがある。

 

1/7 日
日差しがほとんど春みたいで、そういえば年が明けたころ毎年毎年まったく同じふうに感じていたことを思い出す。昼過ぎに恵比寿のSONONに。f:id:karirirrr:20240107232006j:image
オープンの10分くらい前に着いてわたしたちは1組目で、人気店らしくすぐに後ろに行列が形成された。韓国料理と聞くととにかく辛いイメージがあるがSONONの料理はそうではなく、辛いものが苦手な恋人も心配することなく食べていた。店ではなぜかWeezerが流れている。f:id:karirirrr:20240107232014j:image
ぜんぜん美味しそうに撮れない。コサリユッケジャンを頼んだ。味付けなしでもじゅうぶん美味しいがわたしにはマイルドで優しすぎるので、酢醤油とおそらくコチュジャンをかなり追加してしまう。いつだって舌が刺激を求めてしまう。料理のあとは古着屋に行き、ロンTを衝動買い。着られる季節はまだまだ先そうだった。古着屋の店主に写真を撮ってもらったが、自分が撮影される側にまわることに慣れていないのと写真に写った自分の姿を見ることに慣れていないので、撮ってもらった写真を見、自分ってこんな顔しているのか……とけっこうなショックを受けた。思ったより顔と目と前歯が大きくて、目と目の幅が狭い。恋人も写真を撮ってもらっていた。信じられないくらい写真写りが悪くて笑ってしまった。
恵比寿から中目黒に行くもどこもカフェが空いていないので代官山に行き、そこから渋谷。贔屓のピザ屋で夜ご飯。最近なんだか得体の知れない創作意欲はあるけれどそれを携えてどこへ向かえばいいのかわからない、みたいな話をする。恋人は好きなバンドのジンを作りたいと言っていた。わたしも何か作りたい気持ちはあるのに何も作れていない。ここ最近、短歌をやりたいとかラップを始めたいとかオタクとしての自分を総括した本を作りたいとかあれこれ考えているが、この創作意欲はもしかしたら躁状態の自分の発想なのだろうか。
でもどんな会話の流れだったか忘れたけど、わたしが10代だった頃はイケてない男の子やイケてない中年男性の映画はあってもイケてない女の子やイケてない中年女性の映画は圧倒的に少なく(作品はあっても最後に希望を感じさせるようなものはなかった)、イケていない10代の女子(自分のことだ)がこの世をサバイブするには、イケてない男の子やイケてない中年男性の理想の女子になる以外の選択肢はないように思えた、とわたしは恋人に話した。いま振り返ると完全にスポイルされていた。あれから時間が経って時代は少しずつ変化しているような肌感があり、当時の自分に向けたシネマガイドを作りたいなとふと思った。シネマガイドじゃなくてもいい。総括本でもラップでもいい。とにかく何かしら作ることを今年の目標にしていきたい。

今週の一曲/박혜신 Park Hye Jin "Fucked Up"