220710

 久しぶりに朝の10時くらいまで寝るつもりだったのに、8時に目が覚めてしまう。昼前に渋谷に行って『ワンダ』のチケットを買う。上映までイメージフォーラムのすぐ近くのスターバックスで時間を潰す。

 青みがかった映像の中でいつだって寄るべなさそうなワンダ。不安をたたえた瞳で虚空を見つめるワンダ。何も考えていない・あるいは考えることができない頭のわるいワンダ。世渡りが異常なほどに下手で犯罪の協力すらできないワンダ。河に浮かぶ流木のようにただただ流されていくだけの空虚にすら思えるワンダの人間性を否定も肯定もしないまま(『西鶴一代女』や『道』『女と男のいる歩道』のように魂の清らかさを捉えようとすることもなく!)カメラは淡々としかし執拗に追いかけていく。

 ワンダは初対面の女に誘われて酒場に行くも、周りの会話や音楽についていけず、彼女一人だけが俯いて無表情のままだ。寄るべないまま困惑しているように見えるその姿にわたしは自分もきっといつもこんな顔をしているのだろうなとふと思った。ワンダの要領や手際の悪さにはとても覚えがある。それはわたし自身の姿だ。彼女は貧困と抑圧、そして性差から逃れられない世界にいるが、わたしもワンダのようになってしまうんだろうか。 ワンダの不安げな眼差しが忘れられず、B3サイズのポスターを買った。

 ワンダの姿になぜだか路上で死んだシンガー、カレン・ダルトンのことを思い出し、アルバムを再生する。街にいる人はみんな満ち足りて幸せそうで、わたしだけがさえてないみたいだった。帰りに乗っていた電車が途中で快速に変わり、最寄りの駅まで止まらないことに気づかずずいぶん遠くまで行ってしまった。なんだか『ワンダ』みたいだと思った。

今日の一曲/Kalen Dalton "Something on Your Mind"